宗教と全体主義

今回は、2か月間フルタイムで働いたときに感じたことを書こうと思います。

私は火曜日から日曜日まで昼過ぎから夜遅くまで働いていました。

初めはすごい辛い、なんでこんなに安い給料で働かされなきゃいけないのか不満を持ちながら働いていました。しかし、徐々に慣れてくると、働くことが自分の生活の一部になり、自分は何のためにドイツに来たのか、何を目標に生きているのか考えることすらしなくなりました。

マインドコントロール

あのオウム真理教の洗脳法は、とにかく労働や修行をさせたり、ご飯をあまり与えなかったり睡眠時間をほとんど取らせないことで、信者の思考を鈍らせました。

これと同じように、私も毎日働くことで考えることをやめ、また、考える時間すら奪われていたように思います。

私のほかに働いている社員の人達は、私よりももっと長い時間を職場で過ごしています。彼らは私以上に考える時間を奪われ、仕事に人生を捧げています。

マインドコントロールの基本的な方法の一つに、思考操作というものがあるそうです。これは、洗脳させているリーダーを絶対だと刷り込ませたり、その集団が持つ思想が唯一のものだと思い込ませることです。

この方法も私の職場に見られました。

社員の人はリーダーの言うことに絶対に反論することはなく、いつも「そうですね」「その通りです」などと言って受け入れていました。また、ただでさえ休みが少ないにもかかわらず、長期休暇が明けた日には、リーダーに「休みをくださってありがとうございます。」という変な風習もありました。

全体主義思想

次に、全体主義という観点から私の職場を分析したいと思います。

ハンナアーレントがナチスドイツに対して使った意味での「全体主義」という言葉は、今の職場にも使うことができます。

特に、彼らとは異なる意見を持ち、最終的にパートタイムにして働く時間を減らした私のような存在が出現してから、より全体主義思想が強固なものになった気がします。

全体主義とは

全体主義は個人のすべては全体に従属すべきとする思想、または政治体制。

アーレントは全体主義とは、大衆の願望を吸い上げる形で拡大した政治運動(あるいは体制)であるととらえていました。(※1)

ナチスドイツは大衆にユダヤ人という、分かりやすい「敵」を設定することで、ドイツ人に仲間意識を強化させユダヤ人排除の運動に拍車をかけました。

今、私が働く職場でも同じで、彼らと違う思想を持つ私は「敵」とみなされ、彼らから排除される対象となりました。

排除とは過激な言い方ですね。具体的には無視をされたりと、今までの接し方とは明らかに違いました。また、社員たちがリーダーの顔色を伺い、リーダーのわたしに対する接し方に合わせるという風でした。

アイヒマン裁判

さて、次にアドルフ・アイヒマンという人物から、今の職場を分析してみようと思います。

彼は、第二次世界大戦の盛期に、ユダヤ人絶滅という「最終解決」の責任者の一人として、多くのユダヤ人を絶滅収容所や、ガス室へ送りました。彼は、真面目で昇進することに非常に熱心だったそうです。戦後アルゼンチンに亡命して、リカルド・クレメントという偽名を用いて家族と潜伏していましたが、イスラエルの諜報機関モサドによって拘束されました。その後、イスラエルで裁判を受けることになりますが、彼が一貫して言っていたことは、あくまでも法に従ったということです。

人殺しが罰せられるのは、それが法に反する行為だからです。しかし、アイヒマンは自分は法による統制を尊重し、法を守る市民としての義務を果たしただけだと主張したのです。(※2)

さて、私がアイヒマンと、今の職場と類似していると思うのは、職場にはアイヒマンのような真面目で、従順な人々が働いているということです。真面目で従順。故に、彼らは職場内の変な「法」に従っていて、そして、それに従うことは当然のことであると考えているのです。例え、ドイツの法律を無視していようが、彼らには関係ないことなのです。

自分の人生を考える

ドイツにいながらも、ドイツの労働法を無視した職場で働くことで、ドイツ人の旦那さんの働き方と自分の働き方とのギャップに悩み、苦しむ時間を過ごしました。今思えば、その時間は無駄だったなあと思います。

変だと思った時点で環境をすぐに変える努力をすべきでした。

今回、私は考えるということ、またそれに伴って行動をすることがいかに大切かを学びました。考えることを辞めることは、自分の人生を他人に委ねるということです。

自分の人生を自分らしく、自由に生きたいならば、大衆の意見に流されない強い心を持つこと、そして自分で考えることを辞めないことが大切だと思いました。

参考文献

『悪と全体主義 ハンナ・アーレントから考える』(NHK出版新書)

※1 p.217

※2 p.1634、1686-1687

(Kindleのページ数です)